miniSS〔ハガレン〕vol.1                                17 涙

プリティドール

注意:miniとありますが、全然miniではありません。タラタラとやたらに長いです。
まあ、それでもいいと言う方は、お読みください。

∽∽∽∽∽序章∽∽∽∽∽

その日。

夜勤明けの(自業自得なのだが)ロイは、けたたましい呼び鈴に起こされた。

「〜〜〜〜〜なんなのだ? いったい……」

ボサボサの頭、ヨレヨレの寝巻きで、半分寝かけた表情のまま応対に出る。

「え〜、お届け物です。こちらにハンコかサインをお願いします」

押しの強い配達員に催促されるまま、ロイは受け取り書類にサインをしたのだった。

来たとき同様、威勢良く帰っていった配達員。

残されたのは、呆然と佇むロイと、彼の肩ほどもある大きな箱だけだった。

「……大きな箱だな。いったい何を運んできたのだ……?」

手渡された受領書を見て、更に目を丸くする。

「…………人形(ドール)?」

それが、なぜ自分の元に?

首を傾げながら宛名を見ると、そこには『ジャン・ハボック』としっかり書かれてあった。

「は?……ハボック? それが、なぜうちに来る?」

よく見れば、ロイの家の番地はB-5-13、ハボックの家の番地はD-6-18。

確かに見間違えようと思えば、間違うかもしれない。しかもこの殴り書きのような汚い文字では。

「あいつは……人形なんて発注して、どうするつもりなのだ? 人形を愛でる趣味でも持っていたのか?」

言いながら自分宛ての荷でもないのに、頑丈に括ってあった紐を遠慮なくバサバサと切り始める。

最後の紐を切ると、箱の蓋が自然と開き……。

「………………」

中から現れたのは、少し小振りの一体の人形だった。

「これは……ずいぶんと可愛らしい人形だ。しかも、かなり精巧に作られているんだな。肌の質感や筋肉の張り方なんて、人間と変わらないではないか」

物珍しさに揉んだり触ったり弄ったり。

それだけでは飽き足らず、一枚また一枚と、服を脱がせ始めたのだった。

「これほど精巧な人形を、どうしようと思っていたのだ? あのバカ部下は」

そう言いながらも、手は人形の体中余すところなく、触りまくっている。

「ん?!」

手に人にはない出っ張りを感じ、その首裏を見るため、人形の金色の髪をかき上げる。

「なんのスイッチだ……?」

疑問符を口にしながら、迷うことなくその手は人形のスイッチを押していた。

この決断力と潔さがあったから、ロイはこの若さで大佐まで昇進できたのかもしれない。

シュン……と、微かな音が人形から発せられる。

すると。

ただの人形だったはずのものに、ゆっくりと暖かさが増し、なぜか胸元が上下し始めたのだ。

「どうなっているんだ? まさか、人形の形の爆弾とかじゃないだろうな」

部下の名を騙り、人形でロイを油断させて……。

軍の大佐という地位からしてありえないことではないが、そんな手ばかりが込んだ爆弾もいかがなものかと思う。

パキッパキッと、枝が折れるような音をさせて、人形が自ら膝を曲げ肘を折り曲げる。

「…………なん…だ?」

驚くロイの目の前で、人形は独りでに箱から歩み出で、ロイの正面に立った。

そうして、ひどく重い瞼をゆっくり押し上げるように、目を開けたのだった。

琥珀色の瞳。

こぼれんばかりに大きな眼。

キラキラと輝くその琥珀に、ロイは目を奪われてしまった。

そして、人形はピンク色の小さな唇を、ロイと対峙して初めて開いたのだった。

「おっさん、誰?」

「お…おっさんだと?!」

「あー…もしかして、オレのこと購入した人? じゃあ、御主人様ってわけか。まあ、よろしく“御主人様”」

ニッと笑うと、チシャ猫そっくりになる。

と、困惑する頭で、ロイはそれだけをはっきりと断言できた。

 

 

 

「愛玩(ラブ)人形(ドール)?」

「そうそう。要するに、独り身でいる寂しい人が、ペット感覚で購入できるという代物ってこと」

「ペット……仮にも自分のことだろう。そう言い切るかね……。キミは見たところ、男子のようだが、女型というのもあるのかね?」

「ああ。男女、大人子供、赤ん坊や老人なんてのもある。使い方もいろいろで、ホントにペットとして買うヤツや、自分たちの子供代わりにって言うヤツとか。親としてガキの守役としてとか、いろんなのがいるぜ。オレら、アッチの方も可能だから、独身男性の寂しい独り寝のお供なんてのもある」

人形の口から明かされる真実は、ロイにはかなり衝撃的なものだった。

「えー……っと、じゃあ、まあ……キミの名は?」

「へ?」

「いや、名前がないと、呼びにくいだろう。名無しかね?」

「いや、ある。エドワードだ。プロトタイプE-15。見りゃわかるだろうけど、男型だ」

「……人形は皆、キミのように口が悪いのかね、エドワード」

「いろんなタイプがいるぜ。それこそ、人間に個々の性格があるように、人形も購入するヤツの好みに合わせてピンキリで。……って、あんたが購入するときにオレを設定したんだろう。こういう説明も今更だろーが」

「いや……そのことなんだが……」

ズズッと行儀悪く音をたてて紅茶を啜ってから、ロイは今までの経緯を話し出した。

 

  

 

「え……と、じゃあ……んーと…どういうこと?」

「要するに、キミは私が購入したのではないのだよ」

「御主人様じゃないってこと? なら、オレの御主人様は?」

「私の部下なのだが……キミは、どういった目的で買われたのか知ってるのかね?」

「まあね。夜独りで寂しいからって、一緒に過ごしてくれるヤツが欲しいっていう話らしーぜ」

「それって……夜の方の世話も……ってことかね?」

「そうなんじゃねえ? 寂しいってんだから」

「キミは……さっき、そういうことも人形は可能だと言っていたな」

「ああ。オレはまだ、誰ともそういうことはしたことねーけど」

あっけらかんと言うエドワードに、しだいに眉根が寄る思いだった。

人形を相手にSEXをする……他人の好みをとやかく言いはしないが、それはそれで問題があるのではないか……と。

「なあ……オレはあんたが買ったんじゃねーんだろう? ってことは、破棄されちまうわけ?」

「いくら私でも、そんな人非人のようなことはしないよ。購入者が私の部下だとわかっているんだ。引き取りに来るよう伝えてある」

「あ〜〜……それ、無理」

ヒラヒラと手を振って、小気味いいくらいキッパリと言い切る。

「なぜだね?」

「あー、だって、オレってオーダーメイドだぜ。わかる? この意味。この世にたった一つしかない購入者仕様なわけよ。オレのスイッチを入れて、オレが初めて見た人間が、オレの御主人様tってわけ。それ以外の人には目もくれないようにできてるんだ、ドールは。だから、その御主人様がいらないって言ったら、オレは破棄される運命ってこと」

「……………………」

エドワードの言葉を聞いていくうちに、彼の顔はどんどん蒼白になっていく。

「そんなこと、私は知らなかったのだ。なんとか、ならんのかね?」

「ならないと思うぜ。まあ、あんたは故意にそうしたわけじゃないみたいだし、所詮は人形のことだって割り切りゃいーじゃん。それに元々、オレはあんた仕様じゃなかったみたいだから、そう気に病むこともねーだろ」

「人形だと思えないから、困っているのだよ」

「はあ〜あんた優しいね」

自分のことなのに、あっさりとし過ぎているエドワードに、戸惑うのはロイの方で。

人形だからなのか、エドワードがそういう性分なのかは定かではないが。

ここで、切って捨てるようにエドワードを破棄してしまったら、それこそ自分は人間として非道極まりないのではないかと考える。

ピンポン、ピンポン───と。

まるでタイミングを計ったかのように、呼び鈴が続けざまに鳴らされる。

とたん、ロイの顔が嫌そうに歪んだ。

「誰か来たみたいだよ、御主人様……オレ出ようか?」

ロイの表情から察するに、きっと歓迎しかねる人物なのだと思って、エドワードが申し出ると意外にもロイは立ち上がりかけたエドワードを手で制した。

「いや、私が出よう……しかし、面倒だな。おそらく、ハボックだと思うが」

「………………」

自らが呼び出したにもかかわらず、そういうロイにエドワードは驚いたように目を見開いた。

他人の荷を勝手に解き、なおかつ商品に触りまくったあげくスイッチを入れ、呼び出した相手に「面倒だ」とほざく……。

エドワードは、ここへ来てようやく主人とする人間を間違えたのではないかと思い始めていた。

しかし、人形は主人に絶対服従。

感情を持ち、個々の性格はあっても、すべての決定権は主人にあるのだ。

世界中の人間が白と唱えても、主人が黒と言ったら人形も黒なのである。

自分が人形である以上、それは揺るぎない絶対事項だった。

その間にも、ベルはけたたましく主張するように鳴る。

なかなか立ち上がろうとしないロイを心配そうに見つめるエドワードの視線に負けたのか、やっとのことでロイが立ち上がったのはピンポンを2分は充分聞いてからだった。

「なんで私が……」

自宅なのだから自分が迎えに出るしかないだろうに。そう思うエドワードはロイに複雑な目を向けていた。

 

 

 

「大佐、遅いっすよ」

ドアを開けるなりの、ハボックの第一声だった。

「そう思うのなら、とっとと帰ってくれればよかったのだよ、ハボック。……なにか用か?」

「なにか用って……大佐が呼び出したんじゃないッスか、荷のことでッ。人形届いたんッスよね。オレの発注した人形!!!」

「あ…ああ。今、リビングで茶を飲んでいるよ」

「へ……?」

「しかし、キミに人形を愛でる趣味があるとは知らなかったよ。女性にフラレまくって、人形に走ったのかい? そのワリには、エドワードは男の子だったが」

「え? 男…って……、大佐!! あんた、他人の荷勝手に開けたんスか?! いや…エドワードって?」

「落ち着きたまえ。エドワードとは、あの人形のことだよ。窮屈そうに箱の中に納まっていたから、出してやったのではないか。感謝したまえ」

「はあ、ありがとうございます…………なんて言うわけないじゃないッスかッ。────っつうより、男?!その人形は男だったんスか? ちょ……大佐、上がらせてもらいますよ」

ロイの返事も待たず、ズカズカとリビングへ向かって行ってしまう。

「おい、ハボック……まったく、人んちに勝手に……」

そう言うワリに、のんびりと後からついて行くロイだった。

開けてしまった箱に入っていた人形。返せば済むという問題でもなくなってしまったような状況に、どうしたものかと、それでも暢気に鼻の頭を指で掻いているロイだった。

『どうしよう』ではなく、『なんとかなるさ』といった感じがロイらしい。

表情は、口で言うほど困っていないのも、彼らしいと言えば言えるのだった。    

→→→→→NEXT

to be continued ってことで、続きます。もちろん。この続きはNEXT文字からお入りください。
なんだかなにもないうちに、続いてしまって……。とりあえずは、これは序章なので文字通り第1章第2章と続く予定なのです。しかも、第1章からはちょっとHが入るのです。というか、Hから始まります。あ、その前にこの序章の続きを書かなくては。

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