call

冷たい人……。

彼の評価は大概にして、そんなだった。

 

 

ワガママで、自分勝手で、俺サマで。

口は悪いし乱暴だし、正論をヘリクツで捻じ曲げて押し通すような、ムチャクチャな人。

――――――だけど。

 

 

その実、優しくて、悪いくらい儚くて、脆い。

蛮ちゃんのことを思うと、胸の奥が痛くなる。

 

 

そんな、人――――――。

 

 

「銀次〜」

初めて名前を呼ばれたときから、思っていた。

その綺麗な声で、オレの名前をもっと呼んで。

何度も何度も、あなたの声が嗄れるほど、呼んでほしい。

オレの名前だけを、呼んで―――。

最初はなかなか名前を呼んでくれなかったけど。

カミナリ小僧なんて、童謡に出てくる人物のような呼び方でしか、呼んでくれなかったけど。

 

 

だからだろうか。

やっと呼んでくれたときの衝撃は、例えようもないくらいに大きかった。

涙が出ちゃいそうなくらい、嬉しかったんだ。

「銀次ィ〜」

みんなが呼んでくれる『銀次』の何倍も何十倍も、嬉しくて。

もっともっと呼んでほしくって、ワザと返事をしなかったりもした。

そうすると、鉄拳のお返しが飛んでくるんだけど。

ガコン…っていう音とすごい衝撃で、オレは一撃でノされてしまうんだ。

 

 

「こんのバカ銀次ッ、何度呼ばせりゃ気がすむんだッ」

「あう〜ば…んちゃん……」

「あうじゃねぇ。テメーは、目ェ開けたまま寝んのが特技かッ」

「ゴメンね、蛮ちゃん。気持ちよくって、つい……」

「なにが気持ちいいって?! そんな眠り被りてーんだったら、一生起きねーようにしてやろうか?!」

「ち…ちが……そーじゃなくって……いや、そーなんだけど……」

「あ? なに言ってんだ、お前は。……あーもういい。仕事行くぞ、銀次。今日こそ客ゲットしなきゃ、波児になに言われっかわかんねーぞ」

口調は相変わらずだけど。

追いかけるオレを待っているかのように、立ち止まってタバコに火をつけている。

あくまでも、タバコを吸っているだけというポーズを崩さずに。オレを待っているのはついでだと言わんばかりに。

さり気ない仕草で。

優しさの欠片も見せない態度で。

ときには誤解も生んだりする、粗野で乱暴な彼だけど。でも、とても優しい人。

 

 

「早くしろ、銀次ィ〜」

「待ってよ、蛮ちゃん」

優しい彼の優しい声が、オレの名前を呼ぶ。

 

 

そんな、優しい1日の、ほんのささやかな、時間――――――。

 

 

END

ここまでお読みくださってありがとうございました。相も変わらずなんだこりゃ〜でしません。もっとなんかこう銀次が蛮に対して抱くグルグルしたものとかなんとかを書きたかったんですが、できてみりゃほのぼので。なんかそれがなに? って自分で突っ込み入れてしまいました。まあ、こんなんもあり……ってことで(^_^;)                                     管理人

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